慢性肝炎と26年

 

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これは、婦人之友社発行の隔月誌「明日の友」(127号/2000年の夏)に、読者の手記として母が書いた文章です。雑誌に掲載されたときには、私も一通り読んだだけでしたが、亡くなってからこの文を何回も読み返し、母が、ひとつひとつの病とどんな気持ちで向かっていたかということを改めて考えされました。このような母の貴重な記録が残る機会を与えてくださった婦人之友社に感謝しています。

2002年12月 能丸千秋



「慢性肝炎と26年」 GOT、GPTが下がらない      奥村成子(東京・71歳)/2000年夏に執筆

私は昭和4年生まれ。3歳の頃、疫痢になり兄から輸血(兄は現在も健在)を受けたと母から聞いています。17歳の時、黄疸にかかりました。田舎の不衛生な井戸水のせいではないかと思いますが、はっきりとした原因はわかりません。

昭和49年5月(44歳)、食べ物の通過障害に端を発してN市民病院を訪ねたのが長い医者通いの始まりになりました。

通過障害はすぐ忘れましたが、なんとなく胃の辺りの不快さが残っていました。検査したところ、胃カメラで胃にごく小さなポリープが見つかりましたが、この程度のポリープでは無症状のはずだからと、つづいて検査を受けました。

そこでGOT62、GPT34、ALP6.6とやや肝機能がおちていることが判り、投薬と検査が始まりました。50年2月(45歳)にはCCLF+++コバルト5(6)など慢性肝炎の疑いが出て、精密検査のための入院待ちをしている間に、かなりの下血があり、大事と思っていなかった私はかなり動揺しました。すぐ入院、肝生検ほか、いろいろの検査を受けた結果、胃ポリープ、大腸憩室、非活動性慢性肝炎と診断され、それ以来、二週間おきに投薬、指導、検査などを受けてきました。医師の説明は、「腹腔鏡検査、肝臓は両葉共正常大、辺線は鋭く、表面に軽い凹凸がある、膵臓は観察できず(以前起こした腹膜炎の後遺症の癒着のため)、肝生検施行したところ、小葉構造はごく軽度の繊維化が見られ、またわずかに細胞浸潤あり」とあります。

51年3月(46歳)、夫の転勤に伴い東京に戻り、現在のクリニックで治療を続けています。血小板が不足し、歯茎の出血、鼻血、疲労時の下血はつづいていましたが、そのころ大腸の内視鏡検査で下行結腸に門脈圧亢進による静脈瘤が点々とあることが判り、それが下血の原因と考えられるとのことでした。

一方では、数値が安定してきて、各症状も消え、奇跡的な快復といわれ、ほっとしました。数値が落ち着いたといわれ、安心し、外出も多くできるようになり、一ヶ月間の海外旅行をしたり、充実した生活でした。昭和61年(57歳)には思いがけず夫(64歳)が胃がんの手術をし、五年後の平成2年肝に転移、他界(夫69歳)と辛い経験をしましたが、私の肝臓は守られ、安定しておりました。

しかしその後、かなり疲れを感じるようになりました。そんな中、神戸の震災が起こり、神戸出身の私は、ボランティアに参加しました。ひどい風邪をひいたことがきっかけかどうか判りませんが、そのころからGOT、GPTが上昇し始めました。そして、義姉と姉が相次いで亡くなり、特に一人暮らしだった姉の家の整理に心身をしょうもうし、ストレスも強く、その間に18年共にいた愛猫が留守中に弱り、手当の甲斐もなく死んでしまい、一人暮らしの私にとっては円形脱毛症になるほどのストレスつづきになりました。GOT、GPTは200台に上昇、初めてC型肝炎ウィルスが血流中に見つかり、以来養正第一の生活になってしまいました。

平成10年(69歳)、インターフェロンの治療を希望してJ大に紹介入院しました。治療の効果を判断するために肝生検などを受けましたが、年齢、検査結果からも効果は低く、適応しないことがわかりました。病名は、中程度の活動性C型慢性肝炎ということです。クリニックで週二回受診、投薬、検査、指導を受けながら、地元の開業医で強力ミノファーゲンCを40cc、週三回注射を打っています。薬は、ウルソ酸、タチオン、ヴィオフェルミン、ビタミンCの投薬です。

昨年から一人暮らしの単調さを、ハワイにいる娘家族が気遣ってくれ、年二回、冬と夏に三ヶ月ずつくらい、静養をかねて、訪ねるようになりました。このときは、小柴胡湯とグリチロンを持参しましたが、歩くとふらつき、ころびやすく、おかしいと思い服用をやめました。帰国後の検査で薬の副作用でカリウムが不足していることがわかりました。

今年の1月はハワイの娘の出産で、つい無理をしたのか、三月に帰国して以来、GOT、GPTが150前後になり、下がりません。この薬をやめたせいなのかと気になります。

日常の養生としては、食事面では油っこいものは避け、毎食たんぱく質を必ずとる。野菜(便秘をさける)も、果物(便秘を防ぐことと、カリウム、血小板の減少を防ぐ)も、充分に。食後一時間は横臥せ安静にする。疲れないよう心がける。入浴も長湯は避ける、などです。

私のこうした症状は、今後どのように変化していくことが考えられるでしょうか。海外に限らず、温泉地など国内旅行もしたいのですが、よいでしょうか。


【医師から】

この方はC型慢性肝炎の患者さんです。弟一回目の肝生検の所見はわかりませんが、腹膜鏡の所見を見る限りそれほど進行していないように思います。第二回目の肝生検では中程度の活動性慢性肝炎ということです。幸いにも二十年経過しているわりに肝臓の障害の進行は遅いようです。しかし、最近、GOT、GPTが高くなっているようで、やや活動性は強くなっているのかもしれません。しかし、肝臓の働きを見る限り十分余力があるように思います。あまりGOTやGPTに振り回されることなく生活してください。旅行も強行軍でなければ大丈夫です。GOT、GPTの高値が持続するようなら、強力ミノファーゲンCを80から100mlに増量してみるのも一つの方法かも知れません。主治医の先生と相談してみてください。

これまでの進行具合からみて、薬などの調節により、現状を維持していくことができるように思います。



この医師からの回答を読み、旅行好きな母は、「無理をしなければ行っていいといわれた」と、とても喜んでいました。しかし、母のC型肝炎は、昔受けた輸血によって感染したものです。ときどき、「本当に悔しい」と、いっていました。母の家系は長生きで、現在も80歳代の兄と姉が元気ですし、母の父も90歳近くで亡くなりました。母もC型肝炎にさえならなければ、まだまだ長生きできたと思います。私も悔やまれてなりません。